寅吉との出会いは車を運転している時だった。
私の少し目の前を猫が走り抜けた。
嘘でしょ?
どう見ても私の隣の車線を走っていた車にヒットしたのでは?と言う恐怖感で、Uターンして現場に戻ったが、猫らしい生き物は道路にはいなく一瞬はホッとしたが、どう思い起こしても???だった。反対車線で辺りを見渡すと何人かの人達が歩道で地面を見ている。
あそこにいるんだ!とすぐに理解した。
車を降りて、道路を渡って歩道に行くとやはり子猫より少し大き目のトラ猫が横たわっていた。
素手で抱こうと思ったら、かなり興奮していて攻撃的だった(当たり前)ので車に何かあった時に…とバスタオル等々色々なグッズを積んでいるので、取りに行く間、見ていた人に見張っていて下さいとお願いしてバスタオルを取りに行き、バスタオルに包んで保護した。
そのまま、シートベルトもせずに近くの動物病院に駆け込んだ!
そこの病院はもう10年以上通っていた病院だ。
が!閉院間際に駆け込んだら何と!院長に冷遇された。
怒りを抑えながら、とりあえず入院をお願いした。
5日程入院して、これ以上預かっていても救急での処置も終わったとのことで、とにもかくにも、あの冷遇ぶりに早く縁を切りたく、連れ帰ることにした。
症状は大腿骨骨折で歩けてはいなかったけれど、そんなことはどうでも良かった!
こう言う場合は猫の自然治癒力に任せるしかないからだ。
自宅に連れ帰ったが、歩けないながらも人にはやはり攻撃的な猫だった。
真面目に向き合いながら、何とか普通に歩ける様になり、走れる様にもなった。
でも、人間は好きにはなれない様子は最後まで変わらなかったが、彼なりに私に恐る恐るながらも気がつくと横に来ていた謙虚な家猫になっては来ていた。
猫の相関図は複雑だ。
誰は誰に弱く、誰には強い。
好き嫌いも時の流れと新しい猫が参入すると変わって来る。
トラ猫は決して社交的ではなかった。
どちらかと言うと苛められっ子だったと見ていた。
猫部屋の網戸を開けて2週間の家出事件もあった。
毎日、小声で呼びながら探した。
ある日、私の駐車している車付近にいるトラ猫を母が見つけた!
母!グッジョブ!
早速、捕獲器を仕掛けたら、食いしん坊の寅吉はお腹も空いていたこともあり、すぐに捕獲器に入ってくれた。
2017 年の秋口に保護して7年間
7歳……
1カ月程前に怖がりの彼が私は脅かした訳ではないが突然に私が現れたので、ビックリして威嚇した。
その時の彼の舌が横に出て垂れ下がっていたことに気付いた!
食べ方もガツガツ食べる彼がポロポロこぼす。
おかしい!変だ!と病院に連れて行った。
口内、咽頭に何か違和感があるのでは?と全身麻酔を掛けて口内と喉を診てもらったが何もなかった。
暫く経過観察で過ごしたが、やはり食べ方も食いつきも変だ。
食べる量が明らかに少ない。
当然、体つきも痩せて来たので、再度病院に連れて行く覚悟をして、捕獲!
猫を知っている人達はご理解してもらえると思うが、すぐに捕獲出来る子もいるが、本当に闘いになる子もいる。
猫は察するのが早い!
何か私の動きが変だ!
キャリーケースの音にも敏感!
なので、病院に行く前日に猫部屋の外には準備をしておく必要がある。
捕まらない子は洗濯ネットに入れてキャリーケースに入ってもらう。
寅吉はそのタイプで威嚇する、失禁するの大変な子だった!
その時の失禁の悪臭は凄まじい。
その日も凄まじい拒絶と闘いながら捕獲したが、その時の失禁の尿の色はターメリック色だった。
数字前からターメリック色の尿を確認していたが、肝臓が悪い子がいるな〜と順番に血液検査をしなければ…と思っていたが、その尿は寅吉だった。
肝臓ではなく、既に黄疸が出ていた。
かなり早い進行だった。
眼球の反応も落ちていると…
茫然自失だった。
急性リンパ腫だと…
今から何が出来るか?
院長に尋ねた。
そこの院長は本当に信頼出来る方で無類の猫好きで、「猫の病院」「Rキャット」と言う猫だけの病院である。
院長と話ている間にもう手遅れであることは理解せざるを得なかった。
出来ることは、何をするにも体力を戻す為に強制給餌!
これは中々辛い現実である。
何度しても、嫌がる子に無理やり給餌をすることはこちらも辛い。
気合いを入れてゆっくり少しずつ必要量の一缶のほとんどを与えられた!
この調子で明日も一缶!と仕事に出掛けた。
帰宅後、猫部屋で隔離しているケージには恐ろしい量の嘔吐の跡が……
しばらく凝視した。
現実を理解した。
内臓の機能はしていないんだと…
体力もかなり落ちていた。
怖がりなので、本来ならケージに入れられたら、隙あらば出ようとするはずなのにもうその体力も残っていない。
そんな寅吉と向き合いながら
覚悟を決めた。
もう、強制給餌はしない!
このまま、看取ってやろうと…
何度となく経験したことだ。
人間の勝手な想いで少しでも食べられたら、食べてくれたら…と願う気持ちは理解出来るが、結局、嘔吐をすると体力が落ちる。
それは猫にとっては拷問だと…
出来ることは、水分補給の皮下点滴しかないと、自宅にはいつも点滴が出来る準備はあるので、200CCだけ補液した。
が、やはり劇的に体力が低下して行くことは明らかだった。
呼吸が荒くなり出した。
ここまで来ると、もう身体を撫でるしか出来ない。
耳元で「寅吉」と呼びながらさすった。
彼は最後の力を振り絞って喉を鳴らしてくれた。
何度となく惹きつけの様な仕草が始まった。
これが最期になると理解した。
そして静かに息を引き取った。
かなり体液で汚れて臭いもしたので、死後硬直が始まる前に身体を洗ってやった。
タオルで拭いてドライヤーで乾かした。
今は静かにベッドに納めて、寝ている。
これで14匹の猫を看取った。
それぞれの思い出があるが、何度看取っても馴れることはない。
寅吉 7歳
若くして旅立った。
また、逢おうね!